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それから、また数年した頃の話だァ。
自分以外ぇ、なぁんもいなくなッた岩山で、ガタラシンはふと、
わぁん、わぁん、なって声を聞ィた気がした。
あんまりに久し振りに、イキモノの声を聞ィたモンだから、
なんごとじゃァと目をこらせば、そこにゃァ、奇妙な子ザルがイっぴき、ぐぅすか寝ておるじゃァねぇか。
そういやァ、最近ニンゲンなんて変なァサルどもが、川のホトリに群れを作ってたなァ、って、ガタラシンは思い出したんだ。
そいつァ、目が見えねぇ子どもだったァ。
川が枯れて、作物が作れんンなッた村の衆が、クチベラシに、泣く泣く村の、イチバン役立たズな子を、鬼がでるッちゅうでっけぇ、死に山に捨てたんだァ。
ソイツはガタラシンを鬼だと思ったのか、
「鬼やァ、鬼やァ」って呼ぶんだァ。
なんだァ、って気まぐれに返事ィシたら、
「はよゥ食ってくれェはよゥ」、なんて言ウ。
オメェ、なんでソンナこと言うンだァ。早く死にてェのかァ。なんて聞くわなァ。
そシたら、
「オメェさんだって、川が無くてひもじいんじゃろなァ」
なんて言う、ンだァ。
「おらァ、役立たズだからよォ、きのこも探して来てやれねェからなァ。ごめんなァ、はよゥ、食ッてくれェ。」
なんて、見えない眼ッコ、濡らして言ッてんだァ。
「…オメェなんか、マズっこくて、食ェるかァ。」
「そうかァ。ごめんなァ、ごめんなァ。」
そればっかりだァ。
ガタラシン、
オメェそのとき、ちょットだけ、岩山に、草ッこ生えてきたの、気付いてたかァ。
…気付いてナかったなァ。
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