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男は”幸”のドアを開け中に入った。 『これはこれは、半年程ぶりでしょうか』 前の鞄を作った日からもう半年も経っていた。 「やぁ主人、またしばらく久方ぶりだね。予約はこれで最後になるかもしれない。究極の鞄を作って欲しい」 またえらく真剣な表情で言い放つと店主は驚いた表情でこう言った 『究極の鞄ですか…』 「そう、究極の鞄だ。今の私の側にはそれが必要不可欠なのだ。」 『そうですか、ではその究極の鞄と言うのはどう言ったもので?』 「今度は完璧な予定が作れる予定表と、アラームをつけた時計をつけて欲しい。それと、色が最近目にうるさくなってきた。色で飽きなく、更に目にうるさくないものにしてくれ」 『???』 店主は困惑した。無理もない話、男の注文は無理がある話だったから。 しかしここはオーダーメイドショップ”幸”店主もかなり腕が立つ。 『ではお客様、鞄に機械を取り付けるのはいかがでしょう?機械の予定表は完璧にお客様の予定を管理し、最新の時計は行動ごとにアラームが鳴らせるくらいのハイ・テクノロジーにございます。色は綺麗な白がいいでしょう。無であり、飽きもせず、目にうるさくない。』 「おお!それはいい!」男は今までにない喜びかたをした。 「では作ってくれ。金なら…」 男は思い出した。 男の貯金は度重なる鞄の注文で底をついていたのだ。 「申し訳ないが、その作りで金もあまりかからない様に作ってはくれまいか。貯金が底をつき、〇〇万しかないのだ」 『お客様、そんな額ではこの鞄を作るのは不可能です…大体、お客様は都合が良すぎる。容姿が良くって細身で小柄で、それでいて口は小さく縫い目はしっかりと、色は透き通るように白く内が広く、なんでも受け止め、スケジュールにも時計にも正確でお金のかからないようにだなんて…』 ガチャ ドアが開くと女が入ってきた。 『あなた、やっぱりここにいたのね。10ヶ月も放っておかれて、鞄ばかり。私もう…』 「!」 男は気付いた。 「主人、僕の側に必要なものが分かったよ」 目の前の女は男が必要とするものが全て揃った究極の女性だった。 「長くに渡って来たが、僕の側にはキミが必要だ。結婚しよう」 『え…?』 男は貯金は尽きたが心配はいらなかった。すぐに立て直せるまでの地位になっていたのだから。 ここは”幸” また客が幸せな気分で帰ったそうな。
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