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男は鞄が大好きだった。
それが趣味であり、生き甲斐だった。
クローゼットの中に洋服は微々たる数しか入っておらず、後は全部鞄。
赤い鞄、黒い鞄、ワニ革の鞄、豹柄の鞄。鞄がずらっと数えきれないほどかかっている。
ただし、男はやぶからぼうに鞄を買っている訳じゃなく、形、機能、色。全てが他の鞄と似つかないような鞄を買っていた。
同じような鞄をたくさん持っていても意味がないからだ。
その理由は簡単、男は毎日毎日、必ず違う鞄を持って出かける。
その日の気持ちや体調、天気などを見て、今日は落ち込んでいるから青、今日は晴れやかな気持ちだから白、いや、体調が全く優れないから黒にしよう。いやいや、でも天気は曇りだから間をとって灰色にしよう。
などと、色だけで決めるときもあれば、今日は大事な物を持っているから口の小さい鞄にしよう。
と形で選ぶ事もある。
要は鞄を変える事で一日一日気分を変えているのだ。
だから同じような鞄があっては気分が変わらないので意味がない。
今日、男は色々考え事をしていた。その為ポケットがたくさんある鞄を選んだ。天気は晴れ、太陽がまぶしく輝いていたが、外は乾いて北風が強く寒かった。その為男は緑でなおかつポケットがたくさんある鞄を選んだ。
理由は簡単。太陽は黄色く見えて、外は青く冷めるように寒かったからだ。
そしていつもよりませた洋服を着て出かけた。
今日は彼女とのデートの日だった。
いつもと同じ公園の時計の下が待ち合わせ場所。
男は毎度のように遅刻をしていて、本日も期待を裏切る事なく遅刻をした。
女が待っている。女は時間にとても正確で、それでいてスケジュールにも正確な為、男が困らせる事は多かった。
女は呆れた顔をして言った
『あなたいつもいつも遅刻して恥ずかしくないの?女を待たせているのよ?』
男は申し訳なさそうに言う
「すまない。努力をしたんだが、こういう結果になってしまった。本当に申し訳ないと思っている。だけど…」
『その謝り方はこの前も聞いたわ。言い訳もしなくて良いから、早くショッピングでも行きましょう』
女は男のどんなしょうもない言葉も、態度も、受けとめる事ができる広い心を持っていた。
容姿は淡麗で、肌は透き通るように白く、細身で小柄で、目は大きくて口は小さい。俗に言う美人と言う種類の人間だった。
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