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それからまた二週間ほど。 飽きない鞄を手に入れた男は毎日が楽しくて仕方がなかった。 自分に足りないものは見当たらなくなり、そのせいか仕事にも熱が入り、男は昇進した。 男はその鞄を更に愛し、そして誇りにしていた。 だが昇進して仕事が増える一方、書類、資料、など持って歩く荷物が増えてくると、最低限の作りの最高な鞄は縫い目がちぎれ底が抜けてしまった。 男は悲しんだ。と同時に怒りも芽生える。 ”幸”に入る男。 「おい主人、最低限すぎる作りによって資料や書類といった重い荷物を入れて歩いたら底が抜けてしまったぞ。それにいくら小柄と言えども小さ過ぎる。鞄は物を入れる為の物なんだからもう少し広く作ってくれなければ意味がない…」 チップを渡した時とは偉く違う鬼の様な形相をしてそう言った すると店主 『はぁ、そう言われましても私が…』 言う事は分かっていた。 男はこの店を学んだのだから。 「小柄で軽いとしか言ってなかったと言いたいのだろう、では今度はそれに加えて小柄かつ広く有効に物が入る様な形の底が抜けない鞄を作ってくれ」 その後の言葉ももちろん分かっている。 「ちなみに、金なら気にするな。ではよろしく頼む。また一週間後に来る」 『毎度ありがとうございます。お客様に満足して頂けるよう努力致します』 男はその言葉も分かっていた。 そして一週間後、男は”幸”のドアを開ける。 「やぁ主人、鞄を取りに来たぞ。どのようになっている?」 『いらっしゃいませ。鞄はこちらにございます。今回は趣向を凝らし、やや細い作りになっていて、資料、書類も大抵はすっぽりと入るでしょう。更に全体的に繋ぎ目を二重に折り返し、しっかりとした糸を使う事で強化、底抜けを防止し、底には表地、裏地の間に軽くて丈夫な鉄を挟み、縫ってあるので形が崩れる心配もないでしょう』 男は、にやけながら言った 「なるほど、外見とギミックも変わりはないようだな、さすがだ。頂こうか」 『今回はやや高めなのですが、底抜けはしない鞄を作ったので足下はもちろん見ていません故、〇〇万円となります』 「いつもながら関心な値段だな」 『ありがとうございます』 金を払うと男は”幸”を出た。 今回ばかりはもう平気だろうと大分誇らしげに。 鞄は期待通りの出来だった。 一ヶ月も使い続けていた。 そして男は更に仕事に熱が入り、更に昇進していった。
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