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昇進した男は更に荷物が増えて鞄いっぱいになりはじめていた。 するとふとした拍子に鞄から資料や判子、文房具などいろいろな物がこぼれる。 男はそれに見かねた。 ”幸”に着くなり男は言う 「やぁ主人、久方ぶりだね。この鞄にはとても満足しているよ。しかし、この度僕は昇進してね、荷物が増えて鞄いっぱいになり、しまいには鞄からこぼれ落ちて困っているんだ」 『いらっしゃいませ。この度はまたご予約のようですな。』 「うむ、今度は口を小さくして、更に閉じれる様にして欲しいのだ。広い口ではとてもじゃないが安心して歩き回れない。金なら心配はいらない。僕は理想に投資しているのだから」 『かしこまりました。お客様に満足して頂けるよう』 「努力致します。だろう?分かったよ。期待をしているよ。では」 期待に胸を踊らせ、男は店を出る。 男にとってこの一連の流れは楽しみの1つとなっていた。 そして一週間後男は”幸”のドアを開け、中に入る。 『いらっしゃいませ、お待ちしておりました。今回は従来のデザインを活かしつつ、口を小さくしており、尚且止め具をとり着けてあるため、非常に落ちにくくなっております。が、』 「が?」 『形の難解さと止め具の使用により、裏地を返す事が不可能となりました故、裏地の4色は使えなくなってしまいました』 「そうか、それは残念だな。まぁ仕方がないだろう。しかし見たところ、リバーシブルだけならまだ健在のようだな」 『はい、外側2色、内側2色は今までのように楽しんで頂けます』 「それだけで充分、分かった。納得だ。いくらかね」 『趣向を凝らしに凝らしたのでまた高めになりますが、〇〇〇万円となります』 「ここまでしてその値段ならわけない。出そう」 『毎度ありがとうございます。』 金を払うと男はこれでようやく望みが叶ったと気持ちは歓喜に溢れた。 そして仕事はどんどん捗り、男はまた昇進した。 男は大きな会議に出る事となり、予定も敷き詰まってきた。 だが男は前々から予定を立てる事が苦手な事はおろか、予定表も無くす始末、それに付け加え時間にもあまり関心出来るような人物ではなかった為、それぞれの仕事に大きく影響を及ぼした。大きな会議では遅刻をし大きな恥をかいた。 男はもっと鞄に欲を出した。 「この鞄に予定表もつけて時計をつけよう。もちろんアラームつきだ」 男の欲は異常なものになった。
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