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「よし!戻るぞ、唯!」
引っ張り上げられた後から声を発しない唯に、俺は声をかけた。座りこんだまま俯いて、顔の表情が読み取れない。返事もないので、近づいてみた。すると、何か喋ったのが聞こえた。
「……の…?」
「…?」
「何で…何で僕を助けたの…?」
「は…?」
唯は今、なんて言った?
「僕なんか…!死んじゃった方が良かったのに…!!」
「…!!」
顔を上げた唯の表情は、“あの日”と同じだった。誰も信じられないと俺に怯えた、あの日に。
「僕のせいで拓哉君が死ぬかもしれなかったのに…!僕は…僕はいない方が良かったんだ…。僕なんか死んじゃえば…ッ」
パシンッ!
乾いた音が空に響く。
いつも俺は後に気付くんだよね。やっちゃったなってさ。でも、やっぱりやっちゃった後だと意味ないんだよね。後悔って二文字が俺に襲い掛かってくるだけなんだ。
今だって後悔してる。なんで、唯の頬にビンタなんかしちゃったんだろ…俺。
叩いた右手も痺れて痛いし。
「…!?」
唯は、驚いた顔して俺を見てた。そりゃそうだろ。ビンタなんかなかなかされないだろうし、俺だって今初めてビンタした。グーではしたことはあったけど、パーはしたことなかったなぁ…。
「唯…覚えておけ!死んでいいもんなんか何もないんだ!!それに…俺がお前を助けたのは、俺が勝手にしたことだ。お前が気にすることじゃない。」
「拓哉君…。」
「早く立て!バスに戻んぞ!」
「うん…。」
そのまま俺達は、バスに戻った。バスに戻る間、唯と口を聞かなかった。いや、聞けなかった。
唯が俺をどう思ったのか怖くて聞けなかったし、あの日の唯の反応からして、手を出してしまった俺はきっと嫌われただろう。
それに、俺は少し唯より前を歩いてたから、唯の表情すら見ることができなかった。
バスの中に入った時は、みんなの視線が凄く痛かった。当たり前だよな、5分のはずのトイレ休憩が、20分も遅れちゃったんだから。
そんな視線にたえながら、俺と唯は席に着き、バスは出発した。バスの窓から外を眺める。唯とは顔を合わせたくなかったから。
でも、唯には一つ聞きたいことがあった。あの崖で落ちそうになっても持っていた物はなんだったのかを。
「………」
やめておこう。なんだか、触れちゃいけない気がする。
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