少年

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「ゆ~い!」 俺は唯の背中をポンッと叩いた。唯は教科書から俺達へと視線を移した。 「あ…佐藤…拓哉君。何?」 そう、俺の名前は佐藤拓哉(サトウタクヤ)。 何故かコイツは俺をフルネームで呼ぶ。 「何って?さっき言ったろ?教科書には楽しいの意味なんか書いてないって。」 「そうだったね。佐藤拓哉君が教えてくれるんだよねっ!…ねぇ、楽しいって何!?」 またしてもフルネーム。慣れてるけどね。…唯はさっきの授業で俺が言ったことを本気で信じてるらしい。 「はッ!!バッカじゃねーの?あれ、本気にしてんのかよ!?」 俺の隣にいた友達の一人が唯に言った。確かに、その通りだ。しかし、唯はそんなのお構いなしに、俺だけを見つめていた。 「佐藤拓哉君。楽しいって何?佐藤拓哉君は知ってるんだよね!?」 ずいずいと顔を近づけて、真っ黒で澄んだ瞳が俺をまっすぐ見つめる。俺は耐えられなくなって、答えてしまった。 「わーったよ!そこまで言うなら教えてやるよ。“楽しい”って奴をな。」 隣にいた友達二人は俺に頑張れーとだけ言ってどっかに行ってしまった。 なんだよ、手伝ってくんねーのか。 まぁ、簡単だろ。唯だって“楽しい”ってことくらい知ってるハズ。唯は多分俺をからかってるだけだ。 授業の時の仕返しで。 きっと飽きたらすぐに認めるだろう。 とにかく俺は唯をからかいに来たはずだったのに、逆にからかわれたらしい。 「佐藤拓哉君。教えてくれるんだねっ!?楽しいって何!?」 「分かった。教えてやるから、いい加減フルネームはやめろ。なんかウザイ!!」 「ウザイ…?じゃあ、なんて呼べばいいの?佐藤拓哉君。」 「拓哉でいいっつうの!!」 厄介なものに、俺はちょっかいを出してしまったらしい…。
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