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#1.自警団
晴天だった。
絵の具を塗りたくったような空が、地面を見下ろし広がっている。
その中で雲は申し訳なさげに小さく浮かんでいるのみ。
ビュウ、と風が唸り、真っ黒で飾り気のまるでないバンダナが飛びそうになると、右手でおさえた。
ゴオオオオオ………
風はただそれだけを叫んでいる。
眉間にしわを寄せ、その遅さに心の中、嘆息した。
「…………………」
手すりに両腕を寝かせ、そこに顔をうずめる。すると、脳裏に声が響いた。半ば、発狂しているんじゃないかと思う程の悲痛な叫び。その声には涙が混じり、また、愛情が宿っていた。
縛り付けて放さない声のしがらみに耐えられず、何か違うことを考えようとするが、なかなか出来ない。
「…………………」
ただ遠くを見つめる。先には何もなく、あるといえば青い、海のような空があるだけ。
水は人の根源であり、やすらぎであるとはよく言ったものだ。それならばとっくにこの心は落ち着いていて、そして安定しているだろうに。
のんきなことを言ってはいられないが、『都市』を抜けてどのくらいたったのだろうか。
ずいぶんたったのだと思うが、何とも言えない感覚が胸の中で渦を巻いているのである。
もう一度、顔をうずめた。
ほどなく、巨大なものから成る雲の塊を目に捉えた。もこもことしたそれは今まで一度も見たことのないほどまで膨れ上がり、今もなお膨らみ続けている。
最初はそれを気にも止めていなかったが、風向きとは逆の、こちらに迫ってくるといやでも気に止めてしまう。
これはおかしいと直感的に感じ、操縦室に通じるラッパ型の簡易連絡管に手をかける。
その間も雲は徐々に、そして迅速に膨れ上がり迫ってき………
「!?」
サアッと暗く、涼しくなった。
咄嗟に上を見上げると、そこには白い空。雲が光を遮っているのを見た。
嫌な予感は高まり、ラッパに叫んだ―――瞬間。
ズガアアアアン!!
巨大な爆裂音が耳をふさぎ、声を飲み込んだ。
そのまま2回、3回と立て続けに鳴り響き、機関部に到達したのか、一際膨大な音量と熱量が生み出される。
為す術もなく、悔しさ握りこぶしに、身は投げ出され宙を浮く。
―――雲間から覗く、赤き、何かを眼に焼き付けて………
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