大学時代(前編)

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父が失踪してまる一週間が経ったある日、私は窓の外で家の様子を窺っている父を見つけた。うろうろとしながらこちらを見ていた。 母と妹は留守だった。 「おばあちゃん、お父さんが外にいるよ!」 一言祖母に告げ、私は裸足で家を飛び出し、父の元へ走った。 祖母も後からついてきた。 目の前まで行って、一瞬の硬直の後、父は凄い勢いで走り去り、私は追いかけたが、父は脇道に入り、見失ってしまった。 後から追って来た祖母と探したが見つからなかった。 仕方なく家に戻り、私はアルバイトに出かけた。 私がアルバイトをしている間の午後7時頃、父は包丁を片手に家に帰って来た。 皆で説得して包丁を取り上げ、父は家に戻って来ることになった。 その後、父は固い表情で言葉少なに過ごし、翌朝には母と共に会社に謝罪に行った。 父は事実上は解雇されたのであるが、自主退職という扱いをしてもらった。退職金も僅かに出たが消費者金融への返済でそのお金も無くなった。 失業保険を貰えることになり、少ないながら収入を得られることになった。 父は庭いじりをしたりしながら過ごしていた。母は父に付き添い、父を精神科に通わせた。父はギャンブル依存症と診断された。 私は父の顔を見るのが苦しかった。私が父に放っておかれたのも、お金が無くなるとイライラしてお酒を飲んでは難癖をつけられ暴力を振るわれたのも、父母が度々揉めていたのも全てギャンブルと借金が起因していたのだ。様々な感情がストレスとなり、食欲が無くなり、食べれば吐いた。病院にも通ったが治らなかった。1ヶ月で15kg以上痩せた。 突然、母から提案があった。 「あなた、家を出た方がいいんじゃない?お父さんと離れたらどうかしら。」 私も家から出たかった。母と私で私の大学の側での1人暮らしを決めた。 父に報告したところ、父は激怒した。それでも何とか説得し、「勝手にしろ」と言われ、実行することになった。
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