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「そんなに昔から…?」
「…そう。
もしもこの伝説が偽りなら、今に至るまでこんなに根強く浸透していないわよ。」
…確かに。
本当に口伝いのみで語り継がれている話なら大した物だ。
しかし、ここでひとつの疑問が生じた。
「…でもさ、何で口伝いなんだ?
本当に何百年も伝えておきたいなら、普通形に残すだろ…?
…書物だったり…写真だったり…?」
俺は、少し温くなった残りの珈琲を一気に飲み干した。
奈津美は真面目な表情で答えた。
「それはさっき言ったじゃい。"それ"を口にするだけでタブーだったの。
"その名前"を公に口にすると"それ"に殺されるとまで言われているわ。
だから、"その存在"を後世に残さないように形では残さなかった…
でも、それが逆に人々の心に強く残り、口伝いのみでこの土地に浸透したと言われているわ。」
一通りの話を聞いた俺は、奈津美の耳元でそっと呟いた。
「…じゃあ、今それを俺に喋った奈津美も…」
しばし沈黙が流れる。
「…だ、だから小声でボソッと教えてあげたんじゃない!!」
微妙に張り詰めていた空気が、一気に吹き飛んだ。
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