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少女の動きは、怯えのわりに澱みがない。肉を皮から剥がす動作も、繊維のつながりを断つ動作も慣れているようである。
彼女の表情が悲しみを帯びていたのは、正体が判らない連中に囲まれているからだけではなかった。彼女の連れていたヤギは、眠るように目を閉じ、下半身を赤剥けにされ、失った両足のために机に体を乗せられている。さらに、残る前足を少女は引きちぎろうとしていた。
「また、腿の焼肉を作ろうとしている!それはもう知っている。同じものじゃ、意味がないじゃないか」
少年が喚く。
少女が怯えて泣き出した。
どうして私だけ何もしないのだろうか。
「知りたがりの悪魔に気に入られたのですよ」
床の上の袋が、ごそりと動いた。ねずみが生きている。道案内は、昏倒させたものの、致命傷を与えていなかったのだ。
袋を開き、ねずみを取り出す。血の凝固した頭蓋を、銀の皿で打ち付けた。骨片を取り除き、薄ピンク色の脳を皿の上に乗せる。
少年は目を輝かせ、その様子を見守っていた。
「ねずみの脳です。『知りたがり』のあなたにはぴったりの食事だと思いますが」
少年の興味はこちらに注がれ、興奮で滅多矢鱈と四肢を動かしていた。
「この小動物の情報が詰まっております。行動をお知りになりたいのでしたら、どうぞ」
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