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少年は、テーブルの上を駆け出し、銀の皿の前に迫った。
ピンク色の脳を掴み、口に放り込んだ。少年の口についていたものはチョコレートではなく、血なのだろう。
「脳は人間にもあるのか?」
「ありますよ」
指で私の頭を指す。
少年は、額を注視している。
膨れた指を差し出すと、ぱっと額に打ちつけた。
それからは、妙に見るものすべての視点が定まらず、酔ったようにうねっている。視界の端で少女は、白いものを火にくべていた。料理が得意な彼女のアイデンティティが確立されたのだ。ヤギも額から半球状のピンクのものを覗かせ微笑みながら見守っている。
よかった。
さあ、帰ろう。
4.
奇妙な夢を見た。
吐き気を覚えるような夢だったはずだが、不思議と覚えがない。疲れのせいか、研究棟のエレベーターの前にいつの間にか立っていた。
ケーブルが音もなく乗降し、目の前の扉が開く。
ポケットの中に、薄汚れたポストイットが入っていた。
紙を弄びながら、釣り上げられるように上昇する。
ケージの中には、今日もハツカネズミたちが待っている。
時を与え、分解されるその時まで。
[悪魔め]
私は、ポストイットを廊下に貼りつけた。
念入りに。
時の悪魔は遥か下からその様子を見ている。
彼は舌なめずりをすると、指を鳴らし、糸を引いた。
<終>
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