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1.
夢を見た。
黄み掛かった蛍光灯の光に照らされたエレベーターの中にいる。
化粧パネルもなく、剥き出しの金属板は錆びた削り痕だらけだった。
同じ夢を何度も見る。気がつくのは、いつもこの場面からだった。何故か誰かに乗せられた記憶は残っている。
エレベーターは、静かに下降していく。
身体が下降していく夢にいい意味があるとは思えない。
なんの反動もなく最下階にたどり着く。
真っ暗な地下道が口を開けている。先は全くの闇だった。
エレベーターの扉は開いたまま、ボタンを押しても、稼働する気配はない。
上方からきりきりと金属音が迫っていた。下降する何かが、摩擦で辺りを削り散らしている。そんな音だ。金属音に合わせて箱が小刻みに揺れる。暗闇を進まなくてはならない。選択の余地があるなら光のある方にいる。しかし、一つの方法しかない。
恐怖がそれほどないのは、道に終わりがあること、道案内がいることを知っていたからである。
「さあ、こちらです」
道案内が手を引いた。顔も姿も現さない。彼は、目の端より前に出ることなく、気配すら感じさせずに逆方向へ回り込む。
背後の、軋む金属音は長ったらしい断末魔に変わり、衝撃音に変化した。
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