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道案内は、わざとらしく悲鳴を上げ、駆け出した。
後ろを、振り向かせないためだろう。手を掴まれたままなので、こちらも駆け出さずにはいられない。半分以上は引きずられていた。それでも盗み見た景色の中には、真っ二つに割れたエレベーター、その上に乗っかる新たなエレベーター、半開きの扉の中には、ヤギと、その首を抱えすくんでいる少女がいた。
「ねずみですよ」
走る先に罠があった。
「近頃は滅多に見なくなったのに」
すばやく回り込み、用意していたらしい袋に放り込むと、棒で殴りつけた。
この間ですら、道案内は姿を現していない。確認できたのは宙を舞う袋に、鈍い音と気味の悪い「ぎゅっ」という悲鳴だけである。
「ひっ…」
珍しく声が出た。
いつもは、声は出ない。
「おや、非難なさるのですか?けれど、ここを巣にされるわけにはいきませんからね」
ぴしゃりと嫌な音が道案内の側から規則的に続く。
「水に漬ける方が残酷ですよ。息が長引きますから。それに、釣り上げた魚も汚濁した水の中でなんとなく殺すよりは、すぐに血抜きしますでしょ」
…違う。
続けようとしたが、言葉にならなかった。また、いつものように思考は口から出ることなく頭の中に留まっていた。
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