ラプラスの悪魔

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2. 地下道は、明らかに人の手によるものだった。 端の方にある外溝らしき直線に沿って水滴が光っている。入り口から続く扁平な四角はそのままで、少し慣れた目に、貼り紙、電線、パイプなどが薄らと見えてくる。形や反射光が見えるということは、光源があるのだ。エレベーターからの光とは、考えにくい。後方の闇は、前方の闇に比べて一層濃く、1メートル先ですら様子が判然としない。 わずかな反射光も、本当に反射によるものか、それ自体が発光しているかも、区別がつかない。極端に光が少ない空間では、視界は黒色というより灰色で、立体に落ちる影はのっぺりと潰れ、ざらついたテレビの画面のようなノイズが生まれる。 電線もパイプも、そのノイズが生んだ錯覚なのかもしれなかった。 光だけが、視界にこびりつき、残光が視線の動きとともにちらちらと漂う。その残光の走る隙間に、無数の影が生まれ人の形を成していく。 思い込みによるものだということははっきりしていたが、そうなると場の存在感すら嘘めいてくる。
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