ラプラスの悪魔

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これは、夢のはずだ。 夢は、自分の脳の中にある情報だけを見せるはず。 この地下道も、前に見た景色であろう。闇に覆い隠されているが、空間の認識は不明瞭ではない。備えつけられているものは、大抵が判っている。壁の貼り紙も既知のものである。読める。貼り紙に手を伸ばす。爪で剥がそうとする。 この夢の中で、このシーンは長く続かない。ここは、あくまで移動の行程だ。次に開けるところは、普通に視界の利く空間であった。そこに持っていけば、貼り紙の文字も読めるに違いない。 古びた貼り紙を破らないように、慎重に剥がしていく。 「夢の話でもしましょうか」 道案内が言った。 …まただ。 彼は、何かに興味を持ったり執着し始めたりすると、決まって思考を遮ろうとする。 聞く耳を持たなければいいのだろうが、彼の言葉は魔力のようで、一瞬前のことなど取るに足らない事柄だと思わせてしまう。 壁を削る手はだらりと下がり、意識は彼の声にのみ集中していた。
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