ラプラスの悪魔

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「体が休息を摂り、脳だけが起きている。そのような状態に映し出されるものが夢だといいます。見た当人を除き、現世になんらかかわりのない無駄なもの。 脳の情報整理だとも言われますが、そんな単純作業なら、当人すら見ても見なくてもよいようなものでしょう。 知覚を遮断した閉じた意識の中で、ひたすら仮想世界を紡ぐ。その間に使われる代謝は何という無駄でしょう。 また、大人よりも子供のほうが睡眠時によく夢を見ます。彼らこそ、日々、細胞や遺伝子の連鎖により肉を育てていくエネルギーが高く、作用の大きい物体です。細胞の組成が済み、衰えるよりほかにない大人に比べて劣化も少なく、自律した機械のように無駄な時間のない彼らだというのに、馬鹿馬鹿しくも夢にとらわれるのです。著しく乱雑な、当人においても意味のない現象に。 眠り自体、瞬間にエネルギーを完全に効率化できない人間の弱点ではありますが。それゆえに、不可欠ないものでもあるのでしょう。猫ですら、夢を見ないと死に至ると申します」 道案内の声が、前方へ遠ざかっていく。急速に、辺りの闇が深まるような心地がした。 闇に紛れているのか、そもそも姿がないのか相変わらず判然としないが、こんなところで置いてきぼりになるのは嫌だった。
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