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3.
おびただしい数の玩具。ビロードやサテンの張られた金色の調度。深紅の天蓋が部屋を覆い、金の房が蜘蛛の巣のように垂れている。
豪奢ではあるが乱雑で、植物のようなアールを描く古風な椅子や東洋風の足置が部屋の端に積み上げられていた。一応の秩序は、部屋の中央に置かれた大テーブルと、上座に設けられた一段高い椅子だけだった。
遠目に人が座っている様子が見える。知った顔だ。必ず夢に現れる人物だ。姿かたち、年齢も、毎回違っている。
ある時は痩せぎすの白髪の老人。
ある時は筋骨逞しい黒髪の青年。
今は、太り気味の金髪の子供だった。
髪の色、顔も何らつながった系統にないが、ふてぶてしく上座に座っている。それだけで、同一人物だと認識させられている。
子供は、口の端にチョコレートをつけ、不機嫌そうにこちらを見据えていた。お仕着せのシャツのボタンが、はじけそうである。何かを食べていたらしく、子供の前のテーブルは汁気で汚れていた。
「遅かったじゃないか、食事がもう終わってしまうぞ」
甲高い声を上げ、ばたばたと手足を振るってテーブルに打ちつける。衝撃で、銀器が床に落ちた。
そばに侍っている者が元に戻した。そのように見えた。姿は目に写らない。道案内と同じようなものなのだろう。
「同じではありません」
耳打ちされる。
…まだ、いたのか。
呆れて振り返るがやはり姿は無い。
「あれは、私ほど素早くもなければ目が良いわけでもありません。単なる力馬鹿と申しましょうか」
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