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囁きが聞こえたのか、聞こえてないのか。金髪の子供は再度テーブルを叩き鳴らし、怒鳴り散らした。
「お前のせいで、前菜からやり直しだ」
テーブルをひっくり返しかねない勢いで(実際にひっくり返し)、また瞬時に位置が戻った途端、少女が駆け出し、テーブルに皿を並べ始めた。
エレベーターの中にいた子供だ。
怯えたように顔を伏せ、目の前の作業のみに没頭している。皿を並べ終えると、部屋の端のテーブルに移り、肉を細切れにしていた。ぶつりぶつりと、手で引き千切っていく。調理道具は見当たらない。彼女にいつの間に追い越されたのか、どういった過程で料理を任されたのか判らないが、こちらも、眺めるよりほかにない。声が出ない以上は、口を挟むことは出来ない。
前は、少々様子が違っていた。
その時は、伽藍堂の部屋に、私ともう一人の客人が招かれていた。
彼は、どこかの外国の人で、上座の人物に促されると踊りを始めたのだった。
夢の結末は覚えていない。
大抵の夢は結末を見る前に目が覚める。その時もそうだったのだろう。
私は、というと、今と同じく上座の人物と一緒に彼の踊りを眺めていた。彼は、得意気な様子でくるくると部屋の端から端まで回転していったのだった。
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