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院長はフェンスの前で立ち止まると、鬼のような形相でこめかみを震わした。
「あのガキ、一体何処へ逃げやがった!」
「……」
「まあいい。後であそこに依頼しとくか…。馬鹿な奴め。お前は一生ワシから逃げられないというのに。連れ戻したらまた躾が必要だな」
そう呟くと、今来た道を引き返して帰っていく。
もう人の気配は殆ど感じられない。
「……そろそろ大丈夫か…?」
するとビルの通気孔の柵が外れ、そこから少年の顔が現れた。慎重に人がいないかどうかを確かめた後、彼は通気孔から外へ出る。
あの時、この柵が外れかけていることに気付けて良かったな。院長の性格からしてこんな所まで調べようとはしない。案の定周りを見渡すだけで帰っていった。
「くく……。馬鹿は院長、お前だよ」
少年は空に浮かんだ三日月を見つめ、口の端を小さく吊り上げた。
さてと、この街を出るか。あまり長居してると見つかりかねないからな。あと数時間で列車が出るから、それに乗っていこう。…行き先なんかは何処でもいいや。
自由になれるなら、何処だって同じなんだから――――。
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