第一話 ~自由~

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院長はフェンスの前で立ち止まると、鬼のような形相でこめかみを震わした。 「あのガキ、一体何処へ逃げやがった!」 「……」 「まあいい。後であそこに依頼しとくか…。馬鹿な奴め。お前は一生ワシから逃げられないというのに。連れ戻したらまた躾が必要だな」 そう呟くと、今来た道を引き返して帰っていく。 もう人の気配は殆ど感じられない。 「……そろそろ大丈夫か…?」 するとビルの通気孔の柵が外れ、そこから少年の顔が現れた。慎重に人がいないかどうかを確かめた後、彼は通気孔から外へ出る。 あの時、この柵が外れかけていることに気付けて良かったな。院長の性格からしてこんな所まで調べようとはしない。案の定周りを見渡すだけで帰っていった。 「くく……。馬鹿は院長、お前だよ」 少年は空に浮かんだ三日月を見つめ、口の端を小さく吊り上げた。 さてと、この街を出るか。あまり長居してると見つかりかねないからな。あと数時間で列車が出るから、それに乗っていこう。…行き先なんかは何処でもいいや。 自由になれるなら、何処だって同じなんだから――――。
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