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彼は、黙り込んだままの椿の肩を揺さぶる。
「思い出せよ…!」
(…何、言ってんだ?こいつ…)
現実を冷静に客観し、彼を突き放した。
「疎遠だった息子に、最初に言う事がソレか?
ふざけんなよ!!
あんたが会いたがってるのは俺じゃないだろ。」
冷めた目で見据える。
思いがけない椿の態度にうろたえた彼。
弁解もせず口をつぐむ。
花弁を揺らす風…
二人の間を通り抜ける。
「あらあら…
強引過ぎたみたいね?…今日は、もう帰りましょう。」
花に埋もれるように座る女性。気配も感じさせず、いつからそこに居たのか…気付かなかった。
摘んだ花の香りを感じ、ふわりと椿に寄り添う。
「…おかえりなさい。」
耳元で囁き、花を握らせた。
たじろぐ椿に 艶やかでなまめいた唇が微笑む。
黒い長い髪をなびかせ、彼と共に、つむじ風を残し消え去った。
独り佇む椿を優しい香りが慰める。
深く吸い込む程に落ち着きを取り戻し、
手の中の花を見詰める。
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