Moon Outside Glass

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  「なにが特別よ。今日に特別なことなんか、なにひとつないわ」 「そんなことを言ってはいけません。お嬢様の誕生パーティーと婚約披露を同日になさったのは、お父様からのお心遣いですよ」 「昨日より特別な日などないわ!」 彼女の声が、静けさのベールを裂くように響く。 空気が震えて、彼女の目から一筋の涙がこぼれた。 「……そんなふうに駄々をこねさせるために、昨夜、貴女を抱いたわけではありませんよ」 抑揚のない声でそう告げると、彼女はこぼれる涙をパッと散らして俯いた。 「──好きなのよ」 「存じ上げております、お嬢様」 「たとえ使用人と雇い主だって……、私は貴方が好きなの! 今まで出会った男性の中で一番好き……。貴方以外の男なんて、気持ちわるくてたまらないわ」 「お嬢様、そのようなことを……」  
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