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「だってだって、嫌なんですもの! 私だって……私だって、一度だけでも愛してもらえれば、諦められると思っていたわ。けど違うの、全然違うのよ。一度でも愛されたら、もうそれ以外は受け入れられない。貴方以外の人受け入れられない! ……もう無理なの、駄目なのよ。貴方がいい、貴方じゃないといやっ!」
彼女は、ボロボロと涙で頬を濡らしながら、シーツを握り締めた。
熱い雫が次々こぼれ、シーツに染みをつくった。
「私を連れ去って……」
か細い声が聞こえた。
僕は、視線を大きなバルコニー付きの窓に移し、その先の漆黒の闇を見つめた。
どこまでも続くような広大な庭。
崖の上に建つ屋敷。
崖の下には、町の明かりがちらちら光り、夜といえど真っ暗闇ではない。
けれど何故だろう──。
なにも見えない。
手元すらおぼつかないほど、夜は自分たちを蝕んでしまっている。
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