Moon Outside Glass

4/5
前へ
/33ページ
次へ
  「だってだって、嫌なんですもの! 私だって……私だって、一度だけでも愛してもらえれば、諦められると思っていたわ。けど違うの、全然違うのよ。一度でも愛されたら、もうそれ以外は受け入れられない。貴方以外の人受け入れられない! ……もう無理なの、駄目なのよ。貴方がいい、貴方じゃないといやっ!」 彼女は、ボロボロと涙で頬を濡らしながら、シーツを握り締めた。 熱い雫が次々こぼれ、シーツに染みをつくった。 「私を連れ去って……」 か細い声が聞こえた。 僕は、視線を大きなバルコニー付きの窓に移し、その先の漆黒の闇を見つめた。 どこまでも続くような広大な庭。 崖の上に建つ屋敷。 崖の下には、町の明かりがちらちら光り、夜といえど真っ暗闇ではない。 けれど何故だろう──。 なにも見えない。 手元すらおぼつかないほど、夜は自分たちを蝕んでしまっている。  
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

223人が本棚に入れています
本棚に追加