月草タンゴ

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  私は腰に手をあてて、あきれたように息を吐き、お盆にのせていた麦茶をだしてコップにそそいだ。 月の光に照らされて、茶色の麦茶がゆらゆらと色を放つ。 「ねえ、お姉ちゃん」 「ん?」 私は手元の麦茶から顔を上げた。 月を見つめる弟の横顔は、白くて陶器みたいで、まるで作り物だった。 「あの男の人なにか言ってた?」 「気味わるがってたよ。『どうして急に現われた男の子が、君に近寄るなって僕を突き飛ばすんだ』って。『尋常じゃない力だったよ』って。『あの子何者なんだよ』って、ね」 それを聞いた弟は、楽しそうに伸ばした足をばたつかせ、 「してやったり」 「シスコン」 「もういいよ、なんでも」 疲れたように肩をすくめた。 「ねえ。今夜には帰るの?」 「うん。帰らなくちゃいけないからね。おじいちゃんも待ってるし。お姉ちゃんも一緒に来ない? いいところだよ」  
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