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夕暮れ時の多摩川河川敷
コンクリートで出来た土手の上で、二人の高校生が睨み合っていた。
片方はいかつく体格もよい不良風の青年。もう片方はボンバーヘッドでチビの変態だ。
その二人はファイティングポーズを維持して距離を取り合っている。
周りの釣り人たちも、気にしない振りをしながらチラチラと見ていた。
「おいおい、マジかよ…」
奈良はそう言って、喧嘩を止める事を完璧にあきらめた。下手に止めに入って流れ弾を受けてはたまったもんじゃない。
また、奈良は「なんで殴り合う気配がないんだ?」という疑問を持っていた。
彼らが殴り合わない理由、それは二人が格闘技経験者であること、そしてこの喧嘩が突発的なものではないことの2つだろう。
通常、不良同士の喧嘩などは肩がぶつかったり、ガンを飛ばしたりして「やんのかコラァ!」となり、いきなりバキッ!ボコッ!である。そこから何の準備も心構えもなく、突発的に殴り合いが始まるのだ。
しかし今回の場合、磯貝が「喧嘩しようぜ」と宣戦を布告して始まった。そのため両者とも、状況に流されず自由なタイミングで引き金を引けるのである。
1分ほど睨み合っただろうか。その永遠にも思えた膠着状態を打破したのは吉本だった。
「だあああああああっ!!」
叫びながら走り込み、跳び膝蹴りを放つ。
「うおっ!」
磯貝はとっさに後ろに下がって回避した。
だが、磯貝の下がるという判断はあまり適切ではなかったらしい。
「らああああっ!」
着地と同時に吉本が追撃の連打を放ったからだ。磯貝を追いながら次々放たれる拳。
当然ながら引くより追う方が早く、すぐに磯貝は射程内に入れられた。
「チッ!!」
磯貝は引いて距離を取るのをあきらめ、そこで反撃に転じる。
数発のパンチを避けるなり叩き落とすなりし、高速のジャブを突き出して吉本の顔を狙ったのだ。
「ぶへっ!」
吉本の顔に浅く入った左の拳が、心理的効果も与えて自然と彼を遠ざける。
「しゃあああっ!」
磯貝の得意な間合いになったらしく、彼は気合いを入れて反撃に転じた。
体格差にものを言わせ、身長の低い吉本よりも長射程なジャブ・ストレートで相手の拳のアウトレンジから攻撃を加える。
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