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さらに続く磯貝の猛攻。彼は再び足を繰り出した。
またもや先ほどのフェイク・ハイキックと似た軌道を描いている。
『ちくしょう、どこに来るんだ!?』
心の中でそう叫ぶ吉本。先ほどの脇腹への攻撃により、彼は攻撃の位置を予測できずにいた。
確かにまたフェイクの可能性が高い。しかし、磯貝ならそこから頭を狙う事も可能だ。また、続けざまにローを打たれる可能性すらある。
『ちくしょう!!』
その結果、吉本のガードはいささか甘いものとなってしまった。どうしても脇腹を意識してしまい、頭ががら空きになる。
「もらったぁああああ!!」
直後、美しいまでに上手く首へ叩き込まれる磯貝の足。
「がはぁっ!!」
吉本は衝撃で意識を失いかけた。
磯貝の蹴りは普通の蹴り上げるハイキックではなく、首に向かって蹴り下ろすブラジリアンキックである。なかなか街の喧嘩で見れる技ではない。
「ぐっ…」
大ダメージを受けた吉本はたたらを踏んで数歩ほど後退した。距離を取ろうとしたのだろう。
しかし、距離を取った際に生まれた隙を磯貝は見逃さなかった。
「終わりだ」
彼が右足を踏み出したかと思うと、素早く体を回転させて鋭い後ろ回し蹴りを放ったのだ。
「ぐふぁあっ!!」
矢のごとき鋭さの左足がドンッという鈍い音と共に吉本の腹へ突き刺さる。
吉本はフラフラしながら距離を取ったはずだったが、磯貝が後ろ回し蹴りの際に大きく踏み出した右足によってその距離を再び詰められてしまったらしい。
「む、無理ぽ……」
吉本は腹を押さえながら、ゆっくりと地面に崩れ落ちた。
「大丈夫か!!」
倒れた吉本に走り寄る奈良。彼の視線の先では、吉本が背中を夕日で真っ赤に照らされながら仰向けになっていた。
「だ、だめ…」
倒れながらも吉本は奈良に答える。そういった直後、奈良が到着して肩を揺すり始めた。
そして、奈良は振り返って磯貝を睨んだ。
「テメェ、ここまでしなくてもいいだろ!!」
そう叫ぶ奈良。だが磯貝は顔色ひとつ変えない。
「喧嘩を買ったのはそいつだろ。嫌なら嫌って言えたはずだしな」
そう言って磯貝は釣り具の片付けを開始した。ちゃっかり周りの釣り人に「お騒がせしてすみません」と謝っている。
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