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そして、数分で釣り具を仕舞い終えた。
なので磯貝は釣り具ケースを持ち、そこを去ろうと歩き出す。
「ちょっと待てよ磯貝!!」
だが、それを奈良が呼び止めた。
磯貝は振り向かずに歩みを止める。
「いきなり転校してきたって事は、ガッコー退学にされたから仕方なく転入してきたってことだろ?」
それを聞いて磯貝はビクンと反応する。どうやら図星らしい。
「退学になってイライラしてるからって、人殴ってストレス解消してんじゃねぇよ!!クソ!!」
さらに奈良はそう続けた。
それを聞いた途端、磯貝は釣り具を落として奈良にズンズンと近づいてきた。
そして胸倉を掴み、こう叫ぶ。
「うるせぇえええええ!!何も知らねぇでオレにそんな事言ってんじゃねぇよ!!」
彼の顔には、怒りとも悲しみとも取れる表情が浮かんでいた。
睨み合う磯貝と奈良。
「テメェも、オレに喧嘩売ってんのか!?」
磯貝が吠える。だが、奈良は平然とこう答えた。
「殴れよ。オレは殴り返さねーけど」
「くっ…!」
こう言われては磯貝も殴れない。無抵抗の相手を傷付けても後味が悪いだけだし、プライドがそれを許さなかった。
30秒ほど睨み合っただろうか。突然、磯貝が手を離した。
そして、奈良から顔を背けてこう言い放つ。
「もう、その話しはすんじゃねぇぞ」
そして、帰路につくため歩き始める。
奈良も、掴まれた胸倉をさすってから吉本に向き直った。
「手、かして」
「あ、ああ…」
吉本は奈良の手を借りてやっと立ち上がれた。だが、まだ足元がフラフラする。
「まだ、終わっちゃいねぇさ…」
「はぁ?」
吉本は不安定ながらも、3歩ほど磯貝に向かって歩み出た。
そして吉本は、落とした釣り具を拾い上げている磯貝に対してこう叫ぶ。
「まだ終わっちゃいねぇよ!!」
磯貝は釣り具を持ち上げた姿勢で一瞬だけピタリと止まり、ゆっくり振り返った。
磯貝の視線の先には足をガタガタさせながらも必死にファイティングポーズを取る吉本が。
今にも倒れておっ死にそうな感じながら、まだ目には闘志がみなぎっていた。
それを見た磯貝だが、彼はまた視線をそらして無言で歩き出す。
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