ACT.1-KAWASAKI-

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    2007年9月1日   神奈川県川崎市 東急東横線武蔵小杉駅   駅を出ると、まだ朝の8時なのに殺人的な日差しが待ち構えていた。駅から出てきたボンバーヘッドの少年は思わず手で日差しを遮る。 「おいおい、夏休みが終わっても全然夏じゃねぇかよ…。干物になっちまうっつ~の」 少年は一人愚痴りながら歩き出した。胸を大きくはだけたワイシャツに、かなり低く下ろした黒いズボンを身につけた彼は、恐らくこの近くにある「県立小杉高校」の生徒なのだろう。     神奈川県立小杉高校   この時間帯、高校の門は登校する生徒で賑わいを見せていた。 ダラダラとズボンの裾を引きずる不良っぽい男子や、ミニスカートをはいた女子高生が校門をくぐる様は、やはり普通の公立校だ。 先ほどのボンバーヘッドもこの流れに乗って校門をくぐる。 「あぁ、ここに足を踏み入れた今、オレの夏休みは完璧な終焉を迎えた…」 朝っぱらからブツブツとウルサい彼だが、他の学生たちは暑さに半ば鬱気味なのでわざわざ彼に声をかけたりはしない。誰も、こんな場所で無駄に体力を使いたくはないのだった。     教室   教室に入ったボンバーヘッド(以下ボンバヘッ)は、鞄を机に叩きつけるなり空調の操作パネルに蝉よろしく飛びついた。 「新学期の朝からなにやってんだアイツは…」 それを見たボンバヘッの友人らしき長身・茶髪の少年は席につきながら頭を抱えている。 「うおおお!!19℃まで下げっぞ~!!」 そう宣言するやいなや、ボンバヘッは空調の『↓』ボタンを連打して設定温度を最低値の19℃まで下げた。その行いに、クラスの一部や汗だくで入ってきた生徒から拍手が起きる。 「まっ、これがオレの実力さっ」 何が実力かは知らないが、ボンバヘッは自慢(?)のボンバー金髪をいじりながら席に着いた。       学校中にチャイムが響き渡ったかと思うと担任が教室に入って来て、朝のホームルームが始まった。 「よ~し、休みはいるか~?」 威勢のいい、若き体育会系男性教師は出席簿を開きながら教室を見回す。 「先生、なんか後ろに新しい席があるんですけど…」 教室の窓際最後尾にいた女子生徒が手を挙げてそう言った。担任は教卓にあった座席表を確認するが、席がない。
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