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「本当に見たんですよ。真夜中の廊下で、白い人影がすべるように歩いていくのを…」 「寝惚けていたんだろう。そうでなければ、何かの見間違いだ」 「見間違いなんかじゃありません。何年、ここの看護師をしていると思っていらっしゃるんですか。 あそこには、見間違うものなんて何もありませんよ。それに、その人影はほんのりと光っていたんですよ」 「外を通る車のサーチライトが、何かの加減で人影に見えたのかもしれん。あるいは、自分の持つ懐中電灯の灯りが壁などで反射した結果かもしれんだろう」 「そうは言いますけど…」 まったく、どいつもこいつも幽霊が出るなぞとぬかしをって。 そんなものがあるわけ無いだろう。現に、私自身は見たことが無い。 真夜中の病院、というだけで、何か特別な幻想を持っているのではないか。 それは、真夜中の学校にも通じるものがある。 ポルターガイストとやらも、超低周波という、人間には聞こえない音が原因であるという。電気機器が勝手に動く、というのも、空中に無数に飛び交う電波の影響であるらしい。 そんなものをいちいち幽霊の仕業にしていたら、我々の住む空間に、無数に『幽霊』とやらが存在している事になるではないか。もしそうなら、私とて一度くらいは見てもよさそうなものではないか。 しかし、一度として見たことはない。思い込みによる幻覚だ。馬鹿馬鹿しい。 その時、院内放送で名を呼ばれた。どうやら、担当していた患者の容態が急に悪化したらしい。 診察を待っている患者には悪いが、そのまま待たせて急患の元へと急ぐ。幸い今日は患者が少ない。
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