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香月組一行は、裏通りの治安維持と、みかじめ徴収の為に偶然来ていただけで、彼等は店員からの徴収を終えると薬局を早々に去っていった。
それを見送ってから、拓海も用事を済ませると、薬局から立ち去った。
知らぬ間に相当時間は経っていたらしい。裏通りは大人数の住人達で膨れ上がっていた。
それでもまだ序の口。
深夜になるにつれ、この路地を闊歩する人間、廃人はまだまだ増えていく。日が変わる頃には、辺り一帯は危険な匂いを放つ輩達でいっぱいになるのだ。
その盛り上がりは昼下がりの表通りにも勝る程で、この通りに居る者は例外なく、この地で夜を明かす。
だが拓海にはそんな気は微塵もない。
そもそも人間も人間崩れも、廃人も、拓海は基本的には嫌いだ。
当然、群れる気もなく、彼は嫌悪感を懐に隠して、失意の内に自宅へと足を向けた。
しかし道中、拓海に思いがけぬ事態が起きた。
裏通りを外れてすぐ、人気のない一本道が続き、そこにちらほらと、やはり人気のない公園が設置してある。
その一角。
常夜灯に照らされる、可憐な後ろ姿を拓海は発見した。
ブランコに腰掛け、鎖を両手にぐっと握りしめている。星ひとつすら確認できぬ汚れきった夜空に唯一、神聖さをも感じさせる程に青白くぽっかり浮かんだ三日月。それをただ見上げていた。
拓海の方からは彼女の横顔しか見る事は出来ない。
が、辛うじて照らされた部分は確認できる。
未成熟な凹凸の少ない身体のライン。
丸みを帯びたぷっくりとした鼻。
ぱっちりと開いた大きな瞳。
黒く柔らかそうな髪は頭頂部付近で、可愛いらしくツインテールに縛られている。
そのどれもが拓海の胸を鷲掴みにした。
視線がその一点から離せない。
既に高鳴る鼓動は、外に音が漏れていないだろうかと不安になる程、大きな音で早鐘を打ち、拓海の内部を響き、暴れ回っていた。
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