1章・歪曲した本能

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彼は次の作業に取りかかる。ビデオカメラの設置作業だ。 ベッドを中心に撮影を行いたい拓海は、キッチンに三脚を立てて、バッテリーが充分なビデオカメラをそこにセットした。 動画だけでなく、静止画も撮影しようとパソコンのテーブルの引き出しから、使い込まれたデジタルカメラを取り出す。 試しに今の少女を三脚の隣から撮影した。 モニターに無事映し出された少女の姿を見て、彼は口元だけで笑う。 少女の意識が戻る瞬間。それが今からとても楽しみで楽しみで堪らないのだ。 几帳面に位置取りをし、準備は整った。 後は少女が目を醒ますを待つだけ。 だから今はせめて、少女が無邪気で居られる内の寝顔を眺めていよう。そう思い、少々狭いが、彼は少女の側に腰を下ろし、結われた髪束を片手で撫でる。 「…柔らかい」 撫でている側が心地良くなる程の感触。拓海は、ずっと髪を撫でていたくなった。 彼は今、自分でも驚いてしまう位穏やかな気持ちになっていた。 勿論、露出していた部分もそれに伴い穏やかになっている。気付いた拓海は、片手で狭い部屋の中に仕舞い込んだ。 「……ぅ…」 隣から、微かに少女の呻く声が聞こえた。 見ると、瞼を開こうと痙攣した様にぴくぴくと動いている。 ついに待望の瞬間がやってくる。 だと言うのに、拓海の胸の内は今、ひどく落ち着いていた。 少女は瞼をゆっくりと開き、その先の拓海と視線が合った。 拓海は少女が暴れ出すかもしれない、とベッドから立ち上がったが、少女は異常なまでに落ち着いた様子で、ただ拓海の姿を丸い瞳で見つめていた。 「……」 「……」 お互い、微動だにせず視線を絡み合わせたまま数秒が過ぎた頃。 一瞬の隙に、少女はテープで拘束された両腕を上げ、填められた猿ぐつわを一気に外した。 「あ…っ」 そう、拓海は単純なミスをしでかしていたのだ。 両腕を拘束する際、後ろ手に組ませ、完全に身動きのとれない状態にしろと、あのホームページには記載されていたにも関わらず、拓海は己の理想を追求する余り、両腕を前にして手首だけをテープで拘束するという方法をとったのだ。 結果、拘束は完全な物にはならず、いとも簡単に猿ぐつわを首まで下げられてしまった。 拓海は自分の失態に衝撃を受け、口を大きく開いて唖然とする事しか出来なかった。
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