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彼は次の作業に取りかかる。ビデオカメラの設置作業だ。
ベッドを中心に撮影を行いたい拓海は、キッチンに三脚を立てて、バッテリーが充分なビデオカメラをそこにセットした。
動画だけでなく、静止画も撮影しようとパソコンのテーブルの引き出しから、使い込まれたデジタルカメラを取り出す。
試しに今の少女を三脚の隣から撮影した。
モニターに無事映し出された少女の姿を見て、彼は口元だけで笑う。
少女の意識が戻る瞬間。それが今からとても楽しみで楽しみで堪らないのだ。
几帳面に位置取りをし、準備は整った。
後は少女が目を醒ますを待つだけ。
だから今はせめて、少女が無邪気で居られる内の寝顔を眺めていよう。そう思い、少々狭いが、彼は少女の側に腰を下ろし、結われた髪束を片手で撫でる。
「…柔らかい」
撫でている側が心地良くなる程の感触。拓海は、ずっと髪を撫でていたくなった。
彼は今、自分でも驚いてしまう位穏やかな気持ちになっていた。
勿論、露出していた部分もそれに伴い穏やかになっている。気付いた拓海は、片手で狭い部屋の中に仕舞い込んだ。
「……ぅ…」
隣から、微かに少女の呻く声が聞こえた。
見ると、瞼を開こうと痙攣した様にぴくぴくと動いている。
ついに待望の瞬間がやってくる。
だと言うのに、拓海の胸の内は今、ひどく落ち着いていた。
少女は瞼をゆっくりと開き、その先の拓海と視線が合った。
拓海は少女が暴れ出すかもしれない、とベッドから立ち上がったが、少女は異常なまでに落ち着いた様子で、ただ拓海の姿を丸い瞳で見つめていた。
「……」
「……」
お互い、微動だにせず視線を絡み合わせたまま数秒が過ぎた頃。
一瞬の隙に、少女はテープで拘束された両腕を上げ、填められた猿ぐつわを一気に外した。
「あ…っ」
そう、拓海は単純なミスをしでかしていたのだ。
両腕を拘束する際、後ろ手に組ませ、完全に身動きのとれない状態にしろと、あのホームページには記載されていたにも関わらず、拓海は己の理想を追求する余り、両腕を前にして手首だけをテープで拘束するという方法をとったのだ。
結果、拘束は完全な物にはならず、いとも簡単に猿ぐつわを首まで下げられてしまった。
拓海は自分の失態に衝撃を受け、口を大きく開いて唖然とする事しか出来なかった。
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