1章・歪曲した本能

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「ねぇ、ここどこ」 可愛らしい容姿の少女は手足を縛られたまま、凜とした声で、訊ねた。 驚愕の色は丸い瞳からは、やはり窺えない。 「…お、俺の部屋」 拉致監禁犯がおどおどしてどうするっ! 上擦った声で返答した自分に珍しく叱咤する。 ちっとも絶望的な状況に動じない少女に、拓海の心中は穏やかではない。 拓海の焦燥に、少女の丸い瞳がやや訝しげに細められる。 次にどの様な行動をとればいいのか。 拓海は脳内を整理していて、それどころではない様子。勝手にしどろもどろする拓海を見つつ、取り敢えず縛られた四肢をどうにかしようと、少女は部屋の中を見渡す。 近くにテープを切れそうな物は見当たらない。 仕方なく、症状が酷くなって、頭を抱えてパニックに陥る拓海に声をかけた。 「ねぇ」 ……… 返事は返ってこない。独り言をブツブツと呟き、何やら忙しそうなのを理解すると、自由の利かない四肢を使ってベッドの上を這った。 「なっ、なにしてるっ?!」 それを見て慌てるのはやはり拓海だ。 思わず少女の元に駆け寄ると、横抱きにしてベッドの中央へと位置を戻した。 この時の拓海の反応は、脊髄反射とも言うべきもので、少女が落ちて顔に怪我をしないかなどと心配しての行動だった。 これから暴行を加えようという輩の行動とは到底思えない。 ベッドの中央に戻された少女は、口を尖らせて不満を言うでも、恐怖におののく事もなく、笑顔でありがとう。と言った。 「は……ぁ…うん」 見惚れていた。 顔の距離は彼女を跨いだ時と変わりはない。 しかし、少女が見せた笑顔は、寝顔の無邪気さとは比較対照にならない程、拓海の心を大きく揺さぶった。 彼は頷き、少女から目を反らせないまま1歩2歩と後退していく。 少女はその様子を相変わらず丸い瞳で、見つめつつ首を傾げる。 少女はこの時に初めて思った。 (変な人だ) と。 当然状況的見て、その変な人に拉致されていることにも気づいている。 というか気付かない方がおかしい。 でも、今の彼女にとってそれは非常に些細な事だ。 今は、早急にテープを切る事の方が、彼女にとって重要なのだった。 理由は、体からの生理的な訴え。 少し恥ずかしいが、四の五の言ってられず、彼女は拓海に声をかけた。 「ねぇ、お兄さん」 「トイレ…行きたいんだけど」
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