1章・歪曲した本能

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「は、…ああ。連れていくよ」 拓海は少女を横抱きにして、ベッドから運ぼうと手を差しだした。 少女は、やんわりとではあるが拒絶する。 尿意を催している時にそんな不自然な体勢では、我慢できそうもない。 それが彼女の意志だ。 当然もっと大事な事がある気もするが、それは彼女の性格の問題ということに。 しかし、拓海にとって彼女を拘束しているテープを切るという事は、彼女をみすみす逃がすのと同じ事。 拓海は、代わりになりそうなもの器を探す。勉強不足な拓海の部屋には、代用品はなく、キッチンに行った。 が、流石に食器を使うのは躊躇い、部屋に戻る。 少女はもじもじと、必死でこみ上げる尿意に耐えていた。 もし、このまま切らないとしたら、確実にベッドを濡らされる。 「ああ……くそっ!」 彼は素手で彼女を縛るテープを握り、ありったけの力で少女を拘束するテープを切って、解放してやる。 ビリビリッと四肢の拘束が解かれると、彼女は、トイレを探しに部屋を出た。 部屋から見て右側にあるトイレの扉を見つけると、急いで中に入った。 玄関から出て行かないのを見て、演技ではない事に拓海は一安心する。 念の為、彼は少女が逃げないよう、トイレの横で耳を塞いで待つことにした。 この配慮。 拘束を解いた事。 二つから窺えるが、既に拓海の内には少女を調教する気など、完全に失せていた。 失敗した事も理由のひとつに入るかもしれない。 だが、彼の失敗は目に見えていた。彼女の笑顔。無邪気な寝顔。 何より理想の形の人間に、そんな事が出来るはずなかったのだ。 「結局…」 俺はその程度だったんだな。 軽い呟きは、水洗トイレの音にすっかりかき消されてしまう。 扉からすっきりした表情で出てきた少女は何故だか鼻歌を口ずさんで、部屋に戻っていく。 部屋に。 何故? 少女の後を追い、自分も部屋に戻る。 少女は部屋に戻るとすぐ、隅に置いてあるテレビの前に四つん這いになって電源をいれる。 ブラウン管テレビの唸る様な音と同時に、番組の音声が届く。 映像も鮮明になり、テレビドラマが映し出されたが、少女はすぐにチャンネルを回してバラエティーで止めると、画面にかじりつく様にしてテレビを見始めた。 彼は狂いすぎた計画に、完全に脱力していた。 肩の力も抜け、腹が減ってることに気づく。 食料を探しにキッチンへ向かう所で、拓海は一度振り返った。 「飯、食う?」
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