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外からの小鳥の囀りと布越しの光。
2人の朝を迎えた。
結はベッドに全裸で大の字に転がっている。
規則的な寝息を立て、寝返りをうっては、小さい尻を地べたに座る拓海に向けたりする。
拓海は、まだはっきりとしない頭をコーヒーで醒まそうとキッチンにふらふらと向かう。
朝一番、浄水器も付いていない水道水をやかんに溜め、湯を沸かした。
その合間を縫って歯を磨き、顔を洗い着替えを済ませる。
変わりない朝の行動。
今日は平日。
拓海は大学へ行かなければならない。
時計は8時を大きく回り、貴方は寝坊しました。と陽光に照らされた盤面に、二本の針でソレを示している。
昨夜の内にできなかった登校準備を進めつつ、拓海は結を起こすか起こすまいかを悩んでいた。
「学校に行くから外にはでるなよ」と告げる為だけに起こすのも、成長期の結には可哀想だ。
結局、結を起こすのは止めておいた。
甲高い笛の音で湯が沸いた事を知らせる。
拓海は準備を切り上げ、沸き立ての湯をインスタントコーヒーに注ぐ。
スプーンでかき混ぜると、ほろ苦い薫りが拓海の意識を少しだけ覚ましていく。
余った湯はポットに移し変え、彼はそのままのコーヒーに口を付けた。
熱湯で作られたコーヒーを恐る恐る啜る。
苦味が喉を流れるのと同時に薫りがツンと鼻を抜け、舌と空腹の胃を強く刺激する。
やはり熱すぎたらしい。
コーヒーをパソコン台に置き、結の側で寝姿を眺めた。
寝ている間は拓海の理想そのもの。
純真無垢で天使のように美しい。
起きている間は拓海の様な泥にまみれ、荒み、汚れを内に秘めた人間にとって眩しすぎる位に明るい我が儘な少女。
ごろんとまた寝返りをうって結の顔が拓海の方に向いた。
きっと彼女は無意識的にも生きていられるだろう。
充実感のある生活を滲ます寝顔に拓海はそう思い、目を離す。
代わりに時計を見ると、すっかり9時になろうとしていた。
大学へ通う事に意味を見いだせない拓海は普段、この様な時間になると急に面倒になって、2杯目のコーヒーを注ぎ、朝のニュースなどを眺めていたりする。
だが、不思議と今日は登校しようと思った。
「…出るか」
これ以上遅くなっても仕方ない。と、肩掛けの通学鞄から、メモ用紙を取り出し1枚ちぎる。
そこにボールペンで、伝言と連絡がとれるよう携帯の番号を書き記し、キーボードに軽く挟んで家を出た。
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