2章…Triangle

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その反動が登校中の今、痛みとなって襲いかかっている。 カーペットも敷いていない板間で寝るのは自殺行為だった。 乗客の少ない電車の中でしばし反省する。 いつもの時間なら、満員の電車に苦痛を感じながら、耐えなければならない。 当然、乗客全てがそうだが。 空席ばかりの車内で優雅な時間に感動しつつ、遅刻も悪くないと思う。 駅に着き、大通に面す自らの籍を置いている大学に着いた。 丁度、休憩時間なのか、ちらほらと大学生達を敷地内に見かける。 周りに興味なく、校舎に入ろうと歩いていると、校舎から、飼い主を見つけた犬の様にあづみが駈けてきた。 「どうしたの?こんな時間に来るなんて」 遅刻するなら、行かないという中学生の様な言い分を拓海から、タコが出来るほどに聴かされていたあづみは、心底驚いていた表情で目の前に立った。 「気分だよ。それよりお前もよく気付いたな」 「窓から拓海の姿が見えたから」 窓…拓海は大学の門がどの位置からなら見えるのか上を見あげる。 確かに門の正面とも言える位置に窓の開け放たれた部屋がある。 そこは、拓海達が共に講義を受ける部屋に間違いない。 あれは、あづみとの出逢いの部屋でもあった。 「拓海くんって言うんだ」 講義の間、ずっと隣から話しかけてくる女子にうんざりとしていた。 拓海は返事も適当に黒板に描かれる図や式を書き写していた。 隣の彼女も黒板に新たな文字が書き加えられると、右手でしっかりノートをとっている。 だが、器用にその間も彼女の口は止まらない。 「わたし、あづみ。リピートして」 「わたし、あづみ」 「それはわたし」 「実はかかし」 「違あうっ」 大声をあげるあづみに講師を含め全員の視線が集中する。 すいませんっ。とあずみが謝ると、講師はイラッとした顔でまた講義に戻った。 あづみは、拓海の下手くそなリリックに不満を小声で漏らす。 それが耳に届いた拓海は目の色を変えて、反論した。 「ヒップホップを嘗めるな」 「どっちかっていうと拓海くんの方が馬鹿にしてるよね」 当然、拓海の心にヒップホップ魂など砂の一粒すらない。 怒らせれば黙るだろうと考えた結果だ。 結局、これが縁で2人の仲は発展して今に至る。 当時はこんな事になるなど、思いもしなかった。 よくよく考えると、拓海はこの時も、自分の計画は上手くいかなかったのか。と、1人苦笑した。
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