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恒例の放課後デートは非常に簡素なものだった。
ただ、拓海が食料を買い込むのをあづみが後ろでついてくるだけ。
拓海にはその行動が楽しいとは到底思えず、つい、尋ねてしまった。
「なぁ、買い物に付き合うだけで楽しいか?」
「楽しいよ?」
あづみは笑顔で、満足げな表情を向けた。
それは世辞でもなんでもない。
事実、あづみは拓海といるだけで満足なのだ。
拓海は、世間を嫌うが、どこか人を安心させる雰囲気を持つ。
距離が近ければ近いほど、拓海の空間に包まれ、惹かれていく。
拓海本人はそれに気付いておらず、近寄る人間に無難な会話を続ける。
それがまた、人当たりよく感じられリピーターが増えていく。
その繰り返し。
あづみは、拓海が精神的に疲弊を癒せる人間になりたいと切に願う。
傍らに寄り添い、野菜やインスタント食品をカートのカゴに放り込むのを確認する。
配分的に偏りがちに見える買い物カゴの中身を見て、手を伸ばす。
「拓海、インスタントばっかじゃん。もったいないよ」
そして、多すぎるインスタント食品を棚に戻していく。
「料理するよか簡単なんだし、良いじゃん」
「ダメ、料理した方が財布に優しいし、身に付くじゃない」
不満を漏らしながらも、拓海はそのまま、インスタント食品の量が調節されるのを見送った。
結局、野菜コーナーであづみのアドバイスを聞きながら、ひとつひとつカゴに入れ直す。
こんな風に、様々な話題を拓海に持ちかけて、あづみはスーパー内のデートを楽しんだ。
買い物を終えると、2人は普段と変わらず表通りに出た。
その一角で、ジェラートの車上販売しているのを見つけ、一時休憩をとることにした。
夕暮れの時間帯にしては、蒸し暑い通りに煽られ、2人は、2段重ねのジェラートを買う。
太陽光線を全身に受け、熱を帯びた車の隣に、パラソルを差した長椅子に腰を落ち着け、肩を並べて舐め始めた。
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