序章・生死の分かれ目

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際限なく流れる人混みをファーストフード店の窓際にある禁煙席から眺めていた青年…初島拓海はそんな事を考えていた。 外を歩く人々は相も変わらず忙しない動きを続けている。 それを退屈そうに見やる拓海は、ハンバーガーを一口かじった。口の中に広がるケチャップの味とレタスの食感がして野菜の水分が口の中に広がる。だが、柔らかいパンも肉も腹を空かしていない拓海には、とてつもなく不味く感じられた。 折角のデートだというのに、ギラギラと輝く太陽と昼下がりに降った雨が手を結び蒸された道路を見渡せる位置に座っているせいで、拓海の気分はすっかり萎えていた。 それもこれも、隣で気分良さげに鼻歌を口ずさみながら、ポテトを1本ずつ摘んでいる彼女のせいだ。ちなみに今拓海が食べているハンバーガーは彼女の奢りである。 拓海は、これ以上食べれば味覚がおかしくなると限界を感じ、隣に座る彼女のトレーめがけ半月型になったハンバーガーを放り投げた。 「こら、食べ物は粗末にしちゃ駄目でしょ」 隣に座る彼女…榎本あづみは気品を感じさせる程、端正に整った顔の眉根にしわを寄せて拓海を睨んだ。恋人に叱られ拓海はげんなりした表情で渋々投げたハンバーガーを再度手にする。 一度、ハンバーガーを睨むと拓海は腹を括り、かじりつく。やはり限界と顔を歪めつつも、あづみを気にして食べ進む。 もぐもぐと不味そうにハンバーガーをかじる拓海をあづみは笑顔で頬杖をついて眺めていた。
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