2章…Triangle

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人通りの多い場所に面す位置に拓海は少々不服であったが、文句ひとつ垂れずに他愛のない会話をしながら一休みした。 その時間が有意義なものとは感じないが、それでも無視は良くない。 休息にはならない休息をそうして過ごす。 やがて、太陽が沈み始める時間。 あづみはやけに神妙な面持ちで口を開いた。 「今日、拓海ん家行っていい?」 「え…」 拓海はあづみの言葉に思いがけず動揺した。 現在、拓海の家には居候の結がいる。 いくら子供とは言え、見知らぬ女が恋人の家に居座っているのは、放任主義なあづみですら気分が悪い。 しかも結の事だ。 暑いから。という理由から、一糸纏わぬあられもない姿でいる可能性も否定できない。 拓海は大した言い訳も考えつかず、もごもごと奥歯に物の詰まった言い方で言葉を濁す。 「いや今日は…」 今日だけと言わず、出来るならこの先も来て欲しくはない。 適当な言い訳でも、あづみならば引き下がるだろう。 拓海はそう践んだ。 そこで作り笑顔でも浮かべてやれば、なお確実のこと。 拓海は、取り繕う様に笑顔を向け、両手を合わせて謝ってみせた。 しかし、今日のあづみは拓海の描きあげたシナリオ通りに動く事をせず、変わらぬ表情で拓海を見つめていた。 「どうして?」 おかしい… あづみは基本的に積極的な女ではない。 それが今、自分の心を見透かさんと真っ直ぐ見つめている。 あづみの視線、発する声、拓海はその両方に何処か薄ら寒いものを感じ、目を反らした。 「どうしてって……今、散らかってるんだ」 拓海は我ながら、下手な嘘だと思った。 これまでの人生において数え切れぬ程に吐いてきた嘘の中、史上最低の出来映えだ。 何度も自室に踏み込んだことのあるあづみは、如何に拓海の部屋に散らかる程に物が無いことを知っている。 しまった、と顔を歪める間もなく、背中からピシャリとした声が放たれた。 「嘘」 当然の事一瞬にして、バレてしまう。 認めるのは簡単だ。 だが、認めて事態が良くなるはずがない。 嘘は最後まで突き通す。 「嘘じゃ…っ」 そう反論しようとする瞬間、両手で顔を挟みこまれた。 そのまま力任せに顔をあづみの方に向けられ、無理矢理に目を合わせられる。 拓海は直感的に目を合わせていてはダメだと思ったが、意外な行動にすっかり萎縮硬直してしまい、あづみの手を振り払うことは出来なかった。 「ねぇ拓海、何を隠してるの?」
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