2章…Triangle

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鍵を回し扉を開くと、綺麗に髪を2つに縛りあげた頭が見えた。 結は、拉致された時と同じ服を着て水を飲んでいたが、拓海があづみを連れて来たのを口元を拭って出迎えた。 「へ?」 あづみは結の姿に絶句しながら、拓海に腕を引かれ部屋へと引きずられるように移動していく。 結に用意してもらった座布団の上にあづみを座らせると、早くも定位置となったベッドに腰掛けた結を親指で指し示す。 「いとこの結」 「結ですっ」 紹介されると座ったまま、あづみにおじぎをひとつした。 あづみは、呆気にとられつつも反射的にどうも、と軽い会釈で返す。 従妹の話等、一度として聞いたことのないあづみはある意味で衝撃を受けた。 「お姉さんが、恋人のあづみさん?」 興味津々といった表情の結に、あづみは戸惑いながらも数回頷く。 するとキラキラと夢見る瞳で天井を仰ぎ、わざとらしく両手を硬く組んで結は、勢いよくベッドから立ち上がった。 「ああ…何の取り柄もない社会不適合者で、人間の屑こと拓海兄ちゃんに、こんなにも綺麗な方を恋人にしてくれてありがとうございます神様。アーメン」 的確に拓海の本質的な部分を突く結の言葉。 きっと本音だろうと拓海は顔をしかめる。 あからさまな拓海への囁かな暴言だ。 「おもしろい娘だね」 「思考回路が灼き切れてるんだ。あまり気にしないでくれ」 あづみは苦い笑いを浮かべて、うん。と頷いておいた。 協力を申し込んだ拓海ですら、この行動には苦笑すら出ない。 そんな事はどうでもいいのか、結は未だに天井を仰いで夢見ている。 微妙な雰囲気を少し和ませようと拓海はテレビのスイッチを入れた。 何やらグルメ番組の様で、豪華に飾られたテーブルに肉厚なステーキが運ばれ、ふくよかな女性タレントはそれを見て大きな体を存分に使い、感動を表している。 (……やつめ) 結の無駄に大きくわざとらしい動きは、このタレントを見て真似したものだ。 拓海は呆れ果て、結の姿を再度見る。 上手いでしょ、と言わんばかりの得意気な顔をして結は拓海に視線をチラと向けた。 確かに上手い。 子供ながらの感性かと、鼻で笑いテレビに視線を戻す。 結に真似られたタレントは目を見開いて口に運ぶ数々の料理を眺めている内、3人の視聴者達はつられて空腹を感じていた。 あづみは拓海が食料を買い込んでいた事をそこで思い出し、今日は久々に料理を振る舞おうと思い付いた。
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