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「そうだ。ご飯つくってあげよっか」
「お、任せた」
あづみの一声に拓海は目を輝かせた。
最近はインスタント食品と、適当過ぎる不味い炒め物だけで生活していた拓海にとって、あづみの料理と言うのは、砂漠のオアシスに等しい。
あづみの手料理を何度も食べているが、間隔が空く為、飽きることもない。
それどころか今は、拓海はあづみの料理を食べたいとさえ思っていた。
加えて、ここのキッチンを家主より使い慣れているあづみになら全部を任せられる。
拓海は暇つぶしにテレビを見ていようと、待つ気満々。
だが、結はそんな事を知りもしない。
拓海の行動を少し変に思い、あづみを手伝うべく立ち上がる。
「あたし手伝うよ」
素直に気遣う結の言葉をあづみは実に嬉しく思う。
しかし、この家のキッチンは2人入ると動けなくなる程に狭い。
拓海もそれを知った上で動かないのだ。
と、あづみは思うが、例えキッチンが広くても、拓海が手伝ってくれるかは、実際怪しい。
むしろ、料理の才能が全く無い拓海はきっと邪魔になるだろう。
そんな考えさえ浮かぶ。
結がどれ程の腕の持ち主かは解らぬが、あづみの目から見てきっと家の手伝い程度なら出来るとは思う。
女同士で会話しながら、料理をする。
とても楽しいであろう光景に思いを馳せるも、スペースに余裕がないため、残念ながら断るしかない。
「大丈夫っ。結ちゃんも拓海くんと待ってて」
やんわりと断られた結は、仕方なく拓海の隣に再度腰を下ろす。
あづみは、拓海が買っていた物を思い出しながら、何を作ろうかとキッチンへと向かった。
あづみがキッチンに立ったのを確認して、結は拓海に小声で話しかけた。
「拓海、いいの?」
「何が?」
相変わらずグルメ番組を眺めながら、答える。
あんまりに無関心な拓海に結は口を尖らせて、拓海を見ずに話した。
「あづみさん」
拓海には一瞬結の言ってる意味が分からず、返答に戸惑う。
しかし、さっきの場面を思い出し、自分が料理を手伝わない事に関して不満を漏らしているのだと気付いた。
拓海も結と同じく、全く相手を見ずに答える。
「あづみは、1人で作りたい奴なんだよ」
嘘である。
単に拓海が面倒くさがりで、料理の手伝いすらも遠慮したいだけだ。
納得いかない返答に結は口を尖らせたまま、ベッドに転がり、キッチンに視線を向けた。
あづみは料理の行程を進めつつ、嬉しそうに微笑んでいた。
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