2章…Triangle

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それでも、あづみが必死に我慢している原因は拓海にあった。 行為を迫れば拓海は確実に頷き、その腕であづみの身体を抱き、淫靡な時間を過ごせるだろう事はあづみも知っている。 しかしあづみは思う。 それは拓海の願望で抱くのではない。 あづみの願望を拓海が許容しただけなのだと。 その違いが、あづみの欲望に静止を呼びかけ性交に至るのを踏みとどまらせていた。 この1年、拓海と性交に至らないのはその為だ。 結局、指を絡ませたまま一言も話さず、自宅の前でいつもの様に一度だけ軽いキスをして、家へ入った。 拓海は相変わらず、あづみが扉の中に入るまでを見届け、帰路につく。 まだあづみの感触が残る手をポケットに入れて、ぬるい風に温もりが中和されないよう行きと同じ道を辿る。 自分のそんな行為に拓海は、自分が変わり始めている事を感じ取った。 原因は、恐らく…いや確実に結との出逢いだ。 あづみの影響も相当なものではあるが、拓海に自覚させる程ではない。 結はあの日、拓海を受け入れようとした。 見ず知らず、しかも誘拐犯に対して。 通常の思考の持ち主ならば、まず考えられない。 それでも受け入れようとしたのは、結が拓海の何かを感じ取ったから。 自分でも気付かぬ心の奥底にある何かを結は、あの状況で見抜いた。 拓海はそう感じていた。 それからも結の態度はよそよそしくない。 むしろ室内では、べったりと鬱陶しい位に、自分にへばり付く。 そこに人という生物の愛情の深さ、本来の器の大きさを垣間見た。 今まで他人との接触を求めなかった拓海に、この2人が例外を作り、そして苦手意識を打ち消し始めている。 昔は、苦痛を感じたはずの人混みも、今では多少の疲労程度に緩和されている。 きっといつかは、人混みも平然と眺められ余裕を持って人間観察なども出来るかもしれない。 彼は帰り道、自分の停滞していた人生が真っ当な輝きを放ち、その光の先には希望の扉があるかもしれないと、初めて秘められた可能性の存在を信じた。
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