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2人は大学の同輩かつ恋人同士で、今日も大学の帰り道をデートの時間にして、街を2人で駆け回っていた。絶えず笑顔ではしゃぐあづみに対し、拓海は人混みに紛れる事への精神的苦痛と、昼下がりの轟々燃える太陽光に灼かれ、その暑さに体力を奪われすっかりバテてしまっていた。
そこで涼める休憩場所として選ばれたのが、街の表通りの中心部に店舗を構える大型ファーストフード店で、腹ごなしをすることになったのだ。
自動ドアを抜けると、冷房に冷やされた体を噎せ返るような熱気に包まれ、拓海は一瞬店内へ引き返そうかと考えたが、あづみが既に通りを歩き始めたのに気付き、嫌々ながらも後を追った。
通りには学校帰りであろう制服に身を包んだままの高校生達や、営業回りの途中に木陰で汗を拭き取って休憩している背広姿のサラリーマンなど様々な人間の足音や話し声で騒がしく、拓海の回復した体力を削り取り始める。拓海は重い足取りながら、恋人の側を離れる事なくデートの時間を過ごした。
人々を照らし疲れ、太陽が地平線へ沈み始めたのを合図に2人は帰路につく。他愛のない会話をしながら人通りが少なくなるのに幾分か気を楽にしていた。
拓海があづみを家まで送り届けるのが、2人のお決まりパターンだった。人里からほんの少しだけ離れた小さな山の麓に佇む豪邸にあずみは家族と住んでいる。彼女の両親はそこそこ有名な事業家で、儲けた金で学校より二回り程広い敷地に城の様な屋敷を建てた。
街の中心からその姿を拝む事は出来ないが、確実に人の目を引き付ける豪華な屋敷の前で、2人は軽くキスを交わす。それが1日中共にした恋人との別れ際の挨拶だ。
拓海は、あづみが些か飾り過ぎた鉄門の側にある扉をくぐり、敷地内へ入るのを見送ってから、自らの帰路についた。
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