3章…露呈した感情

2/9
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/93ページ
拓海が帰宅しても、結はパソコンの前に真剣な顔で座っていた。 拓海は慌てて、結の背中からモニターを見る。 そこには大型掲示板のニュース速報が映しだされていた。 言いたい放題の住人達に注目する結の姿に、拓海は、ほっと一息吐く。 「何焦ってんの?」 モニターを食い入るように眺めたまま、結は玉の汗を流す拓海に問いかけた。 言葉に詰まる拓海をそっちのけで彼女は別のニュースを開く。 訪ねた側なのに興味なさそうにも感じる。 「…いや、別に」 今はネットの虜となっている結に、自分の秘蔵コレクションを見られてはいないか。 気が気でない拓海は、そのままベッドに転がって落ち着けようとする。 天井には四角い電灯が眩しく光を放っており、拓海は腕で光を遮りつつ、また結のツインテールに目をやった。 時々、左右にさらりと揺れる髪にあの日の感触を思い出す。 細く柔らかで頭の両側から背中にまで垂れる長い髪に、拓海はもう一度触れたいとベッドから手を伸ばす。 だが、腕の長さよりも距離があり、手は宙をさまよわせるだけだった。 左手を泳がせる拓海にとってタイミング悪く、何かを思い出して結がはっと振り返った。 急な動作に驚き、反射的に手を引っ込める。 結はそれに気付かぬまま、拓海に顔を向けた。 「それよりさ、拓海のパソコンってキワドイ写真ばっかだね」 微妙な笑みを堪えた結の言葉に、拓海は肝が冷える思いをした。 「勝手に見るなよ!」 同時に危惧した通りの事態が起きていたことに憤り、拓海は物凄い勢いで身を起こした。 「全部見たのか?」 「だから、何を焦ってるのって」 結は別に他人の趣味にどうこう難癖つける性格でもない。 拓海は、それに薄々解りながらもやはり焦っていた。 言い訳しようにも言葉が出ずに、あやふやな事ばかりを詰まりながら、口にするだけだ。 「あんな画像、他人に見せるもんでもないし、その…なんだ。あれだ。そう、その……」 最後には混乱のあまり、完全に言葉が途切れてしまう。 きょとんとした顔で結は、拓海がそれ以上話さないのを待って口を開く。 「そういうの好きなのは知ってるよ。あたし仮にも被害者だよ?」 そんな物騒な事を平然と笑顔で言ってのける結。 彼女の無邪気な言葉。 それは拓海の心を更に追いつめていくのだった。
/93ページ

最初のコメントを投稿しよう!