1章・歪曲した本能

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恋人…拓海には余りに陳腐な言葉に思えた。 あづみと恋人として付き合い始め、早一年が過ぎようとしていたが、拓海があづみに対して抱く想いは愛情にはほど遠いものだった。浅く名前程度しか知らぬ関係の人間と何ら変わらぬ感情しか拓海は抱いていない。 ただ相手の願望に沿って適当に頷いただけ。それであづみとの関係は始まったが、あづみは予想外に無欲な女だった。全くの無欲というわけではないが、講義に一緒に出席して受講科目が終われば放課後に街へデートに出掛ける。ただそれだけで彼女は拓海との関係に満足をしている様で、この一年、身を寄せ唇を重ねる事はあっても、互いの身体を重ね合わせることはなかった。 清い関係とよく言われるが、拓海が愛情を抱いていない時点で、拓海本人としては清い部分など欠片もない。それでも彼が最も近しい人物として、腹を割って話す仲にまで無関心である拓海と進展した事が、彼女にとって唯一の救いであった。 恋人の住む豪邸よりは街に近い場所に、よく清掃の行き届いた小綺麗なアパートがある。その一室で拓海は1人暮らしをしていた。風呂トイレが別々に付き、1Kの間取りの部屋だ。学生として勉学に勤しみ、働く事をしない拓海は家賃を両親からの仕送りでまかなっている。 玄関から入ってすぐにあるキッチンは余り自分で使わないため、目立った汚れはない。その奥の八畳程のフローリングには、安物のパイプベッドを窓際に、扇風機を押入のそばに、テレビはコンセントが届くよう部屋の隅に、その対角にパソコン一式が専用テーブルの上に置かれている。 拓海はベッドの上に鞄を放り投げるとすぐ、パソコンを起動させ、折り畳み式のパイプ椅子に座って画像収集を始めるのが彼の日課だった。彼が主に収集しているのは健全男子のそれではなく、主に事故現場や戦場写真。もしくは人間の痛ましい死様が撮影された画像だった。
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