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男達の誇示する内容の書き込みは、いつしか彼を泥沼に引き込み、深淵にある甘い果実を用いて誘惑し始める。様々な情報をBBSから学習した拓海は、その誘いを嬉々として受け入れた。
拓海はポケットに入ったままの携帯電話を引きずり出し、サブモニターで時間を確認する。現在の時刻は、8時を少し過ぎた頃だ。奥底から急浮上した己の感情は途轍もない力があり、ちっぽけな理性による抑えは効かず、必要な情報を引き出そうと再度パソコンをいじりはじめた。
BBSの男達は、ただ妄想を事実であるかの様に事細かに書き込んでいるに過ぎない。彼はそう断定し、自分は妄想だけで終わらぬと、興奮覚めやらぬ様子で財布と鍵をひっつかみ家を飛び出し、目的の為に下準備を開始した。
拓海は街に出た。街と言っても表通りを避けるように裏通りを歩き続けていく。その内に怪しげな店ばかりが並ぶ地区に出た。
日が昇っている内は、人通りはなく、捉え方によっては安全であるこの一帯も、日が沈むとあっという間に得体の知れぬ輩共の溜まり場となる。幻覚を見ながら道をさまよう若者や、派手な化粧を施し男へとすり寄る下品極まりない雌共がそこかしこで誘惑を繰り返す。もう少し奥に入れば、血塗れの人間が相手を殺そうという勢いで喧嘩している可能性もある。
それでも今は目的の為に周りには一切目もくれず、裏通りの一角にある薬局を目指して歩く。内心、裏通りの汚れた空気が肺を満たそうとするのを嫌い、浅く呼吸していたが全く意味がない事を認識しつつも高揚した気分は些末な問題と相手にはしなかった。
時折、汚さが酷く目立つ裏通りに似合わないラフな格好で歩く拓海を訝しげに睨む輩と目が合うが、拓海は自然に目を反らしてかわすと、遂に目的地へ到達した。
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