1章・歪曲した本能

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スライド式の扉を開くと、カランカランと上部に設置された鐘が揺れて高らかに来客を告げる。 夜の裏通りに馴染まない拓海の容姿を薬局の店員は1度おかしな顔をしたが、さも興味なさそうにマニュアル通りの台詞を声だけで放った。 拓海は真っ直ぐカウンターに向かい食らいつくような視線で威嚇して数時間ぶりに口を開く。 「ここは倉庫か?」 薬局の店員は拓海の言葉に片眉を上げて、反応を見せた。拓海の口から出た言葉はこの店の合い言葉である。 普段は通常の薬局として営業しているが、この店は汚れに満ちた夜の裏通りを仕切る人間の経営する店で、ヤクザや暴力団との繋がりも強く、医療用の薬の他、覚醒剤などの違法薬物に殺傷能力の高い刃物や拳銃といった法に触れる武器の密輸、売買などを行っていた。しかし、店側も客を選ぶ権利はある。その為に合い言葉を作るという手段に出たのだ。 拓海はその合言葉を同じホームページのBBSで発見していた。それが真実かどうかは店で確認するはしかなく、拓海は掛けに出たのだ。 「……何をお買い求めで?」 店員は拓海の容姿を再度睨みつける様に見た後、危険はないと判断して気だるそうに煙草に手を伸ばし、拓海を相手に商売を開始した。 「スタンガン」 拓海は短く端的に希望商品を答える。 「……用途は?」 店員は煙草に火を点け一服しながら、拓海が告げた希望商品のメモをやはり気だるそうに取り始める。 道具に詳しい人間ならば、通称や道具の名前で注文し簡単に商売できるのだが、BBSの知識しかない拓海はどのスタンガンが次の行動に適切なのかはわからないためである。 用途はと訊かれ、拓海はここまで来て一瞬躊躇してしまった。 社会に適応するための常識を身につけてきた反動が、今になって理性軍を総動員して歯止めをかけてきたのだ。拓海は今更震えそうになる腕を抑えて用途を口にする。 「………護身用だ」 そう言った途端、店員の顔つきが厳めしく変わった。口にくわえた煙草を指で押さえ、もう片方の手でカウンターをハンマーの様に叩いた。 「嘘吐くなよ。そんな奴がわざわざこんな通りに来るかよ」
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