Ⅰ記憶喪失の青年と深い森

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 薄暗い、森の中。 「――ひッ!? 」  風に揺れた葉の音に驚く、少女が一人。 「か、ぜ……? ……ふう」  音の正体がわかり、安堵する。その手には自分の背丈ほどの長さの杖を持ち、胸の前でしっかりと構えていた。 「出口は…ま、まだなの? 」  今にも泣きそうな声で呟く。  しかし、周りには誰もおらず、風が吹かなければ森のなかはシンとして静寂に包まれる。 「こ、こんなに暗いだなんて。入るんじゃなかったぁ…… 」  そういって項垂(うなだ)れる彼女の頭には、青いバンダナ。深緑色の髪は下の方で二つに結んである。  しかも、半袖にブラウンのショートパンツと、このような森とは不釣り合いな格好である。 「うぅ……もういやー……」  ゆっくりとまた一歩踏み出した、その時。 「キャッ! 」  少女の右足が何かに躓き、体が前に勢い良く倒れる。 「い、痛たた……やだ、膝、擦りむいちゃった」  丁度、ショートパンツから出ている膝から、鮮血がじわりと滲み出ている。 「……うぅ」 「―――ッ!? 」 .
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