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風が泣いている。
何を嘆いているのか、分からない。
砂埃のちらつくこの日、13歳の旅人は初めて大きな街に足を踏み入れた。
「ここが…<ヤン>…!」
大きな街と言ってもこの世界「ガル」の時代水準での話である。領主の住む城があって他の村や町よりも発展しているとはいえ、まだまだ素朴な香りが残る街だ。
びっくりして目を見開いているこの少年、両刃の剣を質素な鞘に収め、丈夫な革のブーツを履いて戦いに備えている。ここに来るまでに飢えた獣や盗賊らがうようよする山を超えて来たからだ。
「検問もパスしたし、取りあえず歩き回ろうかな」
しばらく歩いていくと、市場に出た。少年の住んでいた小さな村の市場とは全く異なっている。彼の目にはどれも新鮮なものばかりだった。
「そこの坊や、見ない顔だねぇ!!旅の足しにリンゴひとつどうだい?」
キョロキョロしている彼の顔にリンゴがふたつ飛んで来た。慌てて受け取ったこの少年が振り向くと果物屋でおばさんがニッカリ笑って立っている。
「あら、ふたつ投げちゃったね!まぁいいさ。ふたつとも初回サービスしとくよ。ご用の際はぜひ、この果物屋タオシュンへどうぞ」
「ありがとうおばさん!僕、驢(リュイ)っていう名前です!!」
驢と名乗ったその少年は思い出したように続けた。
「あっ、そうだ!おばさん、図書館ってどこにあるか知ってますか?」
「へぇ~っ!あんたまだほんの子供じゃないか。悪い事は言わないからさ、簡単な本なら本屋で買いなよ。図書館なんかにあるような難しい本、あたしだってロクに読めやしない」
「大丈夫です。どうしても調べなきゃいけない事があるので、字を読む勉強くらいはしてきました」
おばさんは驢の強い決意が滲む瞳を覗いて、それからため息をついた。
「…分かったよ。だけど分厚い本読んで貧血起こさないでおくれよ。」
―数分後―
しまったぁ…。
忘れていた。彼は、驢はかなりの方向音痴だという事を…。
何回か行った事のある場所でも、誰かがついていてずっと案内してくれるか、地図を描いてもらわなければ必ず迷う。初めて見るもの達にすっかり舞い上がり、つい大丈夫な気がしていたのだろうか。
驢は焦るが、もう完全に手遅れだ。右も左も分からない。
と、入り組んだ細い路地に出た。
「どーしよぉ…」
泣きたくなっていた。その時である。
「…お…い、そこの…子供」
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