ヤン

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シュンッ!という風を裂く音。 痛くありませんように…。 ダンッという着地する音。 顔に少し風を受けた。 ザンッ! 「ぐあぁっ!!」 男たちのどよめき。 「来たぞ!あいつが…うぁっ!!」 人を殴るような音。骨折する音も聞こえる。 驢は目を開けた。正直恐かったが確かめないわけにもいかない。 「…あ、え…っ!?」 キルーがいた。 鉾と槍と斧が混じったような刃をもつ長柄の武器を、まるで自分の腕のように扱っている。 体術もなかなかのもので、回しげりやかかと落としなどの足技を中心に決めてゆく。しなやかで素早くも力強い、柔と剛を絶妙に併せ持った彼女は、驚くべき事に手練れの盗賊達相手に互角、いやそれ以上で戦っている。 そう、あの雄叫びはキルーのものだったのだ。 なぜ「関係ない」僕を助けるんだろう… そう思った。しかしキルーがこちらをキッと睨んできたので体がすくんでしまった。 「早く逃げろ!!」 「え、でも…」 キルーのパンチを受けた盗賊の手下が倒れる。 「私は何の為に戦っている!!」 驢はハッとした。キルーは素早くとび回って常に出入り口付近を空けている。 よし! 彼女を信じた足は走り出す。 地面に置いたカバンをひっつかんで走る。 盗賊たちの隙間をぬって、速く、速く。 さっと広場から出た。後ろを振り返ると、キルーが出入り口のすぐ近くで何かの玉をふたつ取り出していた。なぜか武器は消えている。 ひとつめを頭上で握りつぶすと多量の水が出てきて体を濡らした。 そしてもうひとつの玉を盗賊たちへ投げる。 すると玉が回り始めた。砂埃をあげている。そして、突然すごい炎を吹き出した。衣を羽織るように劫火(ごうか)をまとって回る。 広場は火焔に包まれた。 「キルーーーーっ!!」 叫ぶ。すぐ出てきてくれると思った。だから自分だけで逃げてきた。それなのに… 「キルーーーーっ!!バカーーーっ!!」 視界がかすむ。熱で目がヒリヒリするせいに違いない。 「ほーう、貴様も死にたいか」 すぐ後ろで声がした。 そこには血まみれで立つ、キルーの姿があった。 「キルーっ!!」 喜びのあまり飛びつく。しかしかわされてズッこけた。 加えて、その後ろ頭をゴツンと殴られてしまった。 「いっでぇぇぇ…!何すんだよ!」 「知らない者について行くなと母親に…」 「言われましたぁー」 駄々っ子のように頬を膨らませて反抗した。 そしたらまた、殴られた。
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