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夜が明け始めた。
遠くの低い建物から太陽が昇る。
山の端から出る太陽しか見た事がなかった驢の心に,不思議な感覚がうずいた。
二人は果物屋が開店するのを待っている。
「…ねぇ、キルー」
「なんだ」
「キルーはさっきの盗賊たちを…その、こ…」
驢が言えないでいる質問を、キルーが答えた。
「殺した」
そんな…っ!!
頭が真っ白になった。驢は剣を振るったが、あくまでも相手を殺さない程度に、だ。足や腕を狙って、戦えなくしただけなのだ。
だが命の恩人は、さも当然のように"殺した"という。
「正当防衛という言葉に甘えるつもりは無い。この罪はいずれ償う事になるだろう」
前から思っていたが、彼女は口数が少ない。最小限の言葉で終わらそうとする。
「相手はキルーを狙っていたのか?」
「ああ、やらなければやられていただろう」
この言葉は自己弁護ではない。キルーはそんなヤワな女じゃない。今ならわかる。
ただ、まだ死ねないだけ。生きて、目的を遂げなくてはならないのではないか。そう感じさせる雰囲気を、彼女は持っている。
「キルー?」
「なんだ」
「どうやってあの炎から火傷もなしに出られたの?」
「水をかぶった」
「なんで水をかぶると…?」
「貴様には関係ない」
キルーが苛つき始めた。
「いいじゃん教えてよ~(つかなんで怒ってんの)」
「図書館で調べろ」
「…そういえば、なんで僕を助けたの?君みたいな氷鬼が」
氷鬼は眉をピクリと持ち上げたが答えてくれた。
「命の借りは命で返す。それだけだ」
命…ああ、僕がリンゴで命を救ったって事か。でも…
「さっきからさー、何怒ってんの」
「貴様が減らず口を叩くからだ」
「キルーが怒るからじゃん」
「なんだと…」
「なんだよっ!」
お前なんか怖くないぞ!と言いたかったが、ハッキリ言ってめちゃくちゃ怖い。
しかしファイティングポーズをとってしまったからもう遅い。
「はぁっ!」
ガタガタという大きな音で、果物屋タオシュンの店主のおばさんは外で客が待っている事に気がついた。
「はいはい、ちょいと待ってておくれよ」
引き戸を開けた。すると…
「まぁまぁ!」
女と少年がほっぺをつねって引っ張り合っていた。女の方が圧倒的に優勢だが。
「うがふぁんやひゅんわを」
「はゃひひゃわはをひぇ」
そして理解不能な言語を話していた。
「ケンカするんじゃないよーーーーっ!!」
おばさんの大声にハッとして、二人は硬直する。
「はひゃ」
「はふぅわ?」
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